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Another Sky-第2のふるさと-

  • 【島根県】島根には「根」がある!
  • 2023-12-14
  • 李銀映(イ・ウニョン)

    島根県 2006年4月~2009年3月 CIR

  • 【島根県】島根には「根」がある!
     
    JETプログラムの本当の始まりは日本生活がスタートする時ではなく、任期が終わってからではないかと考えることがあります。私と島根とのご縁を遡ってみると2006年の春から続いていて、もう少しで20年目を迎えようとしています。しかし今でもこうして韓国の皆さんに島根を紹介する機会があったり、島根の人々との付き合いが絶えないことを考えると、島根に滞在していた3年間に劣らないほどに、今も密度の高い関係を維持しているように感じます。
    島根の話になると、つい「ご縁」という言葉に力が入ってしまいます。それは島根が縁結びの神様を祭っている「出雲大社」のある、「縁結びの地」だからです。

    日本神話の舞台「出雲大社」
    出雲大社は、かつて「大社」と呼ばれた唯一の場所であり、その創設については古事記や日本書記などに書かれている神話を通じて語られています。日本神話の舞台となったため、島根は神々の国・神話の国とも呼ばれます。
    出雲大社が最も活気に溢れる時期は旧暦の10月です。旧暦の10月は日本では「神無月」と呼ばれ、全国の一般的なカレンダーにはそのように記されています。しかし、日本全国の八百万の神々がこの出雲大社に集まることから日本の47都道府県の中で唯一島根だけが「神在月」と称しています。

    この神在月には、全国から集まった神々が人々のご縁を結ぶ会議をされるとの伝承があり、出雲大社は全国からの参拝客でにぎわいます。縁結びといってもそれは男女の縁だけを表すわけではありません。私たちの周りに存在するあらゆる繋がり、そのご縁のことを指します。
    出雲大社のお守りを手に取って期待を膨らませる海外からの観光客の顔を見ると、良縁を願う気持ちには国境がないことを改めて実感します。
     
    お茶をこよなく愛する島根の人々「松江城大茶会」

    (※写真出典:しまね観光ナビ)
    10月には国宝の松江城が見守る中、松江市内では様々な催しが開かれます。怪談で有名な作家ラフカディオ・ハーンの物語を辿る「松江ゴーストツアー」や松江城一帯を手作りの灯篭で灯す「松江水燈路」、 そして町ごとに大きな太鼓を据えた山車を筆頭に多くの老若男女が太鼓を打ち鳴らしながら引き廻る「松江祭鼕行列(まつえさいどうぎょうれつ)」などがあります。
    その中でも日本三大茶会の1つ、「松江城大茶会」は欠かせない秋の醍醐味です。

    日本有数のいくつもの流派が一堂に会し、松江各地の会場に茶席を設けます。普段は敷居の高いと感じられるお茶への世界に誘われ、毎年15,000人もの来場者が訪れます。正式な茶室で楽しむお茶ももちろん素晴らしいですが、野外で気持ちのいい風に当たりながら秋の匂いの中でいただく抹茶の味はまた別格です。
    お茶を楽しむ文化とともに自然と和菓子文化も発達している松江は日本の三大和菓子処でもあります。毎年この大茶会限定の和菓子を振る舞う老舗もあり、まさに五感で楽しむことができます。
    島根は細長い形をしており、同じ県内とは言え、東部(出雲地域)と西部(石見地域)では大分雰囲気が違います。松江城や出雲大社のある東部は静けさのある奥ゆかしいところで、石見銀山のある西部は明るく溢れる活気とのんびりした雰囲気がほどよく混在するところです。そしてその活気は石見地域の神楽を通じても伝わってきます。
     
    躍動感あふれる「石見神楽」

    『鬼滅の刃』などの人気アニメにも登場する神楽は、もともと神に奉納するため奏される歌舞のことです。日本全国には地域ごとに様々な神楽が継承されていますが、石見地域の神楽は地域の伝統芸能でありながらも時代とともに変化を成し遂げ、新たな舞を生み出してきました。石見地域では、週末になるとどこからともなく神楽の音が聞こえてくるほど、年中神楽が上演され、親しまれています。人口が19万人でありながらも神楽団体は130か所以上にのぼるほど、この地域の人々にとって神楽は切り離すことのできない暮らしの中の伝統文化なのです。

    日本神話を題材に活気溢れる演奏に合わせて、豪華な衣裳を身にまとい演舞される石見は、大蛇が火や煙を吹くなど臨場感あふれる演出や簡単明瞭な物語は、年齢や国籍を問わず見る人々を虜にします。今や日本国内はもちろん、海外でも高く評価をされていて、韓国でも上演されたことがあります。石見神楽に使われるお面や衣装などはすべて石見地域の和紙で作られ、地域産業とともに共生しており、2019年5月には日本遺産にも登録されました。
     
    地域から世界に発信!世界遺産「石見銀山」

    韓国の済州島が世界遺産に登録された2007年に、島根の「石見銀山」も世界遺産に仲間入りしました。石見銀山は、アジアで初めて世界遺産として登録された鉱山遺産であり、坑道などの鉱山遺跡のみならず、その周りの景観や文化をすべて含めて後世に残すべき遺産として認められたのです。最盛期には世界の産銀量の約3分の1を占めた日本銀の多くが石見銀山で産出されたとされ、ヨーロッパ人に日本を知らしめた存在とも言われています。発見された坑道だけでも600以上と、当時の賑やかだった様子を思い浮かべることができます。

    江戸時代にタイムスリップしたかのような世界遺産地区の懐かしい景色の中では、今も人々の生活が営まれています。昔から継承されいる地域の暮らしをより豊かにするために様々な取り組みが行われ、最近は他地域からの若者たちの移住も増え、新たな活気を吹き込んでくれています。2019年にはユネスコのESD(持続可能な開発のための教育)リーダーシップシンポジウムが開催され、町の持続可能な取り組みを視察し、議論を行いました。ここの暮らしの様子は文化、環境、未来など様々な観点から衰退していく地方都市をどう再生するかという問題意識を共有する人々にインスピレーションを与え、知る人ぞ知る「学びの場」としても評価されています。
     
    島根という地名には「根」という文字が含まれています。3年間の島根での暮らしがかけがえのないものになったのは、おそらく島根の「根」を肌で感じたことができたからだと思います。人口約65万人の新幹線も通らない地方ですが、その中に潜んでいる根強い文化への誇りや自然との共生という生き方が私に考える力と癒しを与えてくれました。JETプログラムを通じて、一言で日本と括りたくない、こんなにも多彩で豊かな地方の文化が息づいているということを改めて発見することができました。
     
    島根は海を挟んですぐ向かい側にある朝鮮半島と古来から活発な交流が行われました。しかし、コロナという予期せぬ局面を迎え、長い歴史を持つ島根と韓国との交流もしばらく困難な状況に陥りましたが、2023年10月からやっと島根までの足となる仁川‐米子直行便(米子空港~松江市内まで車で約40分)も再開され、人々の往来も本格化しています。再び近くなった分、これからもっと島根を旅する人が増えることを期待しながら、最後に出雲弁で皆さんに感謝の心を伝えます。
    だんだん(ありがとうございます)!
     
    (参考: 島根県公式韓国語ブログ 「ご縁がだんだん」)
    https://blog.naver.com/shimanekko