日韓のコミュニティビジネス支援制度を比較
~2013年第1回CLAIR-KRILA共同研究会を開催しました~
2013年8月
ソウル事務所
ソウル事務所では、2009年度に「韓国地方行政研究院(KRILA)」と「協力及び情報交流に関する協約(MOU)」を締結し、2010年度より共同で研究活動やシンポジウムを開催しています。
2013年度は、「自治体における地域共同体活性化方策」をテーマとし、第1回研究会を2013年6月19日(水)に開催しました。その内容をお知らせするとともに、次回、第2回研究会の概要(後日報告予定)についてもお知らせします。
【CLAIR-KRILA共同研究会・セミナーの概要】
・目的:日韓の連携を強めるため地方分権を巡る課題等について掘り下げて比較研究を行う
・主催:日本自治体国際化協会、韓国地方行政研究院
・日程:第1回共同研究会(2013年6月19日)
第2回共同研究会(2013年8月28日予定)
共同セミナー (2013年11月28日予定) 計3回開催
・場所:ソウル市内
・内容:テーマに沿った内容についてさまざまな視点から研究・分析・発表
(研究を進めるにつれ、テーマの関連する内容を掘り下げていく形をとる)
・2013年度研究テーマ:自治体における地域共同体活性化方策
(社会的企業・コミュニティビジネス・マウル(村)企業等)
・過去の研究テーマ
2012年・・・国家・地方間福祉行財政政策の方向
2011年・・・地方自治団体災害防止対策研究
2010年・・・地方行財政制度比較研究
※参考
【韓国地方行政研究院(KRILA)とは】
○設立目的・・・地方自治の定着・発展のために創意的かつ実践的な調査や研究、政策開発を推進し、急変する行政環境の
変化に対する地方自治体の能動的な対応を支援する。安全行政部の傘下機関。
○機能
地方行政・地方財政・地域発展に関する政策研究
国、地方自治団体、民間団体などに対する諮問及び経営診断 など
○自治団体への支援事業内容
行政分野、財政分野、地域発展分野のコンサル、診断、開発 など
○ウェブサイト http://www.krila.re.kr/ |
1 第1回共同研究会の日韓比較
第1回共同研究会では、現在日韓の国レベルで実施されている地域共同体活性化に向けた取組みについて比較研究を行いました。
韓国側では、安全行政部(部は、日本の省庁に相当)から「マウル(村)企業」について、日本側では、総務省から「地域の元気創造プラン」について、それぞれ発表が行われました。
なお、韓国側でも日本側でも地域共同体に向けて支援している事業は他の部局でもあるのですが、より比較を明確にするため、今回は「安全行政部」と「総務省」の取り組みの比較に特化しました。
☆韓国側発表)~マウル(村)企業について~
[背景]
これまで韓国政府は「地域共同体」を私的領域として認識し、最小限の関与を図ってきましたが、2010年以降、各種犯罪、暴力、自殺などの社会問題解決の新たな手段として「地域共同体」を認識し、住民主導・行政関与最小化などの基本原則を前提に、支援を始めるようになりました。
[マウル企業について]
マウルとは韓国語で「村」を意味します。「マウル企業」とは、いわゆる「コミュニティビジネス」のことを言いますが、安全行政部の認定を受けたものについて、特に「マウル企業」と呼んでいます。
安全行政部はこの「マウル企業」の育成を共同体活性化事業の推進課題としています。
このマウル企業を育成するためには2つの方法があります。
(1)マウル企業を新しく作る
(2)既存の地域共同体をマウル企業に認定する
このように2つの方法を取りながら、2012年6月末現在で、計781箇所のマウル企業ができました。
政府が「マウル(村)」と名付けた意味の1つとして、現在日本で言う「里」の水準にある地域共同体を、マウル(村)の段階にまで教育・成長させることによって、住民自治会機能の実現及び地域課題に対する自己決定機能を強化させたいという目的があるとのことです。実際、地域懸案問題(高齢化問題、福祉問題、雇用問題など)を解決するための住民自治会モデルの類型を作成し、住民自治会が必ず持つべき基本モデル(地域福祉型、安全マウル型)と、その地域の属性に合わせて選択できる選択モデル(マウル企業型、都心創造型等)を組み合わせて、それぞれの地域共同体が自己決定機能の向上を図ることを推奨しています。実際、2013年までに30余りのモデルを設置し、2014年以降持続的に拡大していくことを計画しています。
このように、マウル企業と認定された地域共同体に事業費を支援することはもちろんのこと、そのマウル企業をモデル化させるのと並行して、マウル企業の教育訓練やコンサルティング強化のための専門機関の設置、またリーダー育成の教育プログラムが用意されており、作成・認定したマウル企業を育成するために必要な支援が計画・実施されています。
☆日本側発表)~地域の元気創造プラン~
一方、総務省の「地域の元気創造プラン」は、大都市に人口や資源等が流れて地域経済が疲弊している現状を踏まえ、地域からの経済成長に向けて、地域の元気を創造する取組を支援するものです。その方法として、地域イノベーションサイクル(後述)を全国各地で展開すること、地域活性化のための新しいインフラを整備すること、が挙げられています。
地域イノベーションサイクルとは、地域ラウンドテーブル(産学金官)が連携して、地域資源の発掘・再生、地域資源を生かした産業と人材力の活用のうえ、それを実績化し、実績検証をしたもののノウハウをデータベース化したものをフィードバックして、変化をもたらしていくことです。従来の「産学官」の考え方に「金(金融機関)」を取り込んだところに特徴があると言えます。
この「金融機関」を取り込んだ地域イノベーションサイクルを展開するための具体的な支援施策として、「地域経済循環創造事業交付金」があります。これは、地域の資源と地域の資金(地域金融機関の融資)とを結びつけて、地域における経済循環を創造し、新たに持続可能な事業を起こすモデルの構築を行う市町村及び都道府県を支援する事業です。
よって事業対象は、「雇用を創出し、地域課題の解決に資する事業(いわゆるコミュニティビジネス)」ですので、いわゆるコミュニティビジネス事業に対する支援といえます。
申請・交付金交付は市町村又は都道府県を通してなされ、地域課題の解決度が高いと判断された事業に対して、地域経済循環創造事業交付金が交付されます。2013年6月末現在、第1次交付(先行モデル)18事業と第2次交付の49事業の計67事業が決定したところです。
今後、これらを先行モデルとして、データベース化し、各自治体や関係団体等に広く情報発信するためのツールとしても活用し、フィードバックされる計画となっています。
☆日韓比較~
日韓両者とも、今ある地域課題を解決する手段として地域共同体を認識しており、その役割を担う団体に対して支援する形は変わりません。しかし、韓国側がマウル企業を作ることを推奨し、機能を持たせようとしているところに重点を置いているのに対して、日本側は事業者側の今あるコミュニティビジネス事業にどのように効果的に支援をしていくかに工夫を凝らしているところに特徴があると言えます。
第1回共同研究会の様子(韓国地方行政研究院セミナー室)
2 第2回共同研究会の方向性
第2回共同研究会では、第1回の事業施策の発表からさらに踏み込んで、それぞれの施策を活用したコミュニティビジネスの事例について取り上げます。日本側ではその施策を活用した事業者からの発表のほか、その事業者を支援した自治体の視点からの発表も取り入れ、一方、韓国側の発表では、実際にマウル企業を運営している事業者からの発表と、その関係者から制度等について、研究を深める計画です。
(長谷所長補佐 富山県派遣)
参考資料
(1)韓国側発表資料「自治体における地域共同体活性化方策」
(2)日本側発表資料「地域の元気創造プラン」