2012 韓国地方行政研究院(KRILA)との共同セミナー開催
~国家-地方間の福祉行財政政策の方向~
2012年11月
CLAIRソウル事務所
ソウル事務所では、2009 年度に韓国の地方自治に関する総合的な政策研究機関(行政安全部の傘下機関)である「韓国地方行政研究院(KRILA)」と「協力及び情報交流に関する協約(MOU)」を締結し、共同で研究活動やシンポジウムを開催しています。今年度は「日韓の福祉行財政」をテーマにしており、5月と7月に行った共同研究会については、メルマガ9月号でお知らせしましたが、2012 年 10 月 11 日(木)にその集大成として、
「2012 CLAIR―KRILA 共同セミナー」を韓国国会憲政記念館にて開催しました。
1 基調講演
基調講演:堤 修三氏 (大阪大学大学院教授/元社会保険庁長官)
「日本における福祉サービス方式の転換」 |
会場内の様子
基調講演では、大阪大学大学院教授である堤修三氏が、介護保険創設と障害者福祉制度改革により転換した日本の福祉サービス等について説明がありました。
堤修三教授は、日本の介護保険制度の成立に深く関わられた方であり、福祉サービスが従来の措置制度から契約方式に転換したその意味と結果、今後の課題等について、行政サービスと準市場(サービスの提供主体・内容・価格について公的な規制が行われる市場)、社会保険方式と税方式という軸で説明されました。行政の役割が、直接的なサービスの提供責任からサービス購入費用の保証とそれに伴うサービスの品質確保の責任へと変化したこと、このような関わりで住民が十分な福祉サービスを受けることができるのか等、サービス提供のあり方についても提議されました。
韓国国会憲政記念館
1998年に国会開院50周年を記念して建てられたもので、歴代の国会議長の肖像画や、国会の仕組みなどを説明したパネル等が展示されています。国会議事堂の観覧には予約が必要ですが、国会憲政記念館は予約なしで見学することができます。
国会憲政記念館外観 国会憲政記念館内観
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2 第1セッション
テーマ:「高齢者政策における国家-地方間の福祉財政の問題点と改善方向」 |
座 長:金東建氏 (ソウル大学行政大学院名誉教授) |
発表者:李相龍氏 (地方行政研究院先任研究委員)
島崎 謙治氏 (政策研究大学院大学教授) |
討論者:木村 陽子 (自治体国際化協会理事長)
陳璟鎬氏 (ソウル新聞論説委員)
朴光德氏 (世明大学社会福祉学科教授) |
高齢者人口の急激な増大に伴い様々な方面に影響があることは、日韓共通の認識であり、とりわけ福祉財政に与えるインパクトは甚大なものです。韓国側からの発表にもありましたが、日本と同様、都市部に比べ農村地域の自治体における高齢化がはるかに深刻な状況を見せており、中央政府と地方自治体がどのように財政負担すべきなのか、制度設計をどうするのか等、データを元に現状を把握しながら問題点と改善方向が議論されました。
日本の医療保険制度は、被用者保険と地域保険(国民健康保険)の二本立てになっていることが最大の特徴であり、韓国と異なる点でもあるとのことでした。
日本の住民基本台帳や韓国の住民登録番号等のように住民に関する基礎データがない国では、その上でしか成り立たない制度設計は不可能であり、法律や行政制度等について似ている部分が多いからこそ、日本と韓国を比較研究できるこのセミナーにおいて、活発な意見交換がなされるのだと改めて思いました。
第1セッションの登壇者
3 第2セッション
テーマ:「地方自治体における福祉サービスの提供システムの効率化について」 |
座 長:横道 清孝氏 (政策研究大学院大学学長補佐) |
発表者:片桐 由喜氏 (小樽商科大学教授)
白鍾萬氏 (全北大学社会福祉学科教授) |
討論者:石井 博美氏 (社団法人北海道国際交流・協力総合センター事務局長)
金鎭興氏 (華城市副市長)
權五哲氏 (地方行政研究院研究委員) |
第2セッションでは、より住民に近いところでの福祉サービスをどのように提供するかが議論されました。地方分権がすすむ中、地域の特性に合わせてきめ細やかな住民サービスの提供が求められますが、反面、地域格差も生じており、自治体職員の専門性等の課題もあります。
韓国側の発表では、地方自治体レベルで推進すべき政策課題として、①基礎自治体レベルの社会福祉サービスの企画力の強化、②地域社会の共同体意識の育成を基盤とした長期的に持続可能な地域福祉体制の構築、③農村地域等、民間部門のサービス供給量が不足する地域では、広域自治体において支援する政策を設ける等が挙げられましたが。座長からも地域を大切にしながら、官民一体となって取り組むべき課題であるとのコメントがありました。
4 おわりに
本セミナーでは、関係者の方々のご協力により来場者の反応はよく、熱心に聞き入る姿が見られました。また発表者の皆様には、発表資料だけでなく、配付用の資料も作成いただき、350 ページを超える資料集を完成させることもできました。
日韓関係が様々に動く中、開催自体を懸念する時期もありましたが、日韓の行政関係者や学識経験者等が会し、議論を深める場となったことは調査研究のみならず、国際交流の側面からも意義のあるセミナーだったと感じました。
(萬谷所長補佐 京都府派遣)